クリントイーストウッドのダーティーハリー(1971)が意外と面白かった理由

私はシナリオスクールに通っているのですが、プロの脚本家の先生が見ておいた方がいい映画の一つとして「ダーティーハリー」を挙げていました。

私はハリウッド映画よりヌーベルバーグとかヨーロッパ映画の方が好きな上、刑事ものはどれも同じようなストーリー展開(とんでもない犯人がいて、カッコイイ刑事が四苦八苦してそいつを捕まえる、的な)に思えて興味がなかったのですが、勉強のため仕方ない、U-NEXTに再登録して見てみました。

 

まず事件が起こるのが早い!最初に犯人の「さそり」が登場してから開始2分くらいで若い女性が撃ち殺されます。そして3分くらいでハリーが登場し犯人の声明文を発見、5分ほどで警察署にて犯人さそりの目的「これから毎日1人づつ殺すからそれが嫌なら10万ドル払え。返事がなければ黒人と神父を殺す」という声明文が読み上げられます。

映画が始まって5分で観客に「これからどうなっていくんだろう」と思わせる展開です。

その後は10分ほどハリーがどれだけ異色な、つまり「ダーティー(汚い)」刑事なのかの人物説明が続きます。

①市長や上司である警部補、署長が、時間稼ぎのために新聞に「金を用意するまで待て」と掲載するように命令しても「市民の犠牲が増える」と反対意見を言う

②それが通らずしぶしぶ行きつけのハンバーガー屋で昼ご飯を食べようとしたところ、銀行強盗が発生する場面に出くわし、ハリーは手荒く銃撃し犯人逮捕。そして自分も膝を打たれる。

③別事件で出動することになり、上司から新人のチコを相棒にして一緒に行けと命令されるも「教えるの大変だし俺の相棒は大変だから無理」と断ろうとし、上司からチコじゃないとだめだと強く言われて仕方なく連れていく。

④チコになぜダーティー(汚い)ハリーと呼ばれてるんですか?と聞かれ、他の刑事に「ハリーは人間なんてみんな汚いと思っているからだ」と言われる。

 

その後、異常な人間性を持つサソリとの闘いが始まります。

簡単に言うと、犯人と警察(ハリー)との追いかけっこの繰り返し

① 警察のヘリが犯人を見つけるが取り逃がす

② ハリーとチコが犯人を探す→似た男を追跡するが人違い

③ そうこうしているうちにサソリが第二の殺人(黒人少年を殺す)

④ 声明文の通り次は神父が狙われると踏んだハリーとチコは教会近くのビルに張り込む→犯人を見つけ暗がりの中で銃撃戦になるが取り逃がす

⑤ さらにサソリが第三の事件を起こす→市長宛てに手紙が届いて「14歳の少女を誘拐した。明日の3時までに20万ドル払え。黄色のバックに入れてヨットハーバーへ来い」

⑥夜、ハリーが1人で港まで行くと公衆電話が鳴り、ハリーが出ると、犯人から「公衆電話めぐりさせてやる。次は〇〇駅へ行け。電話に出ないと娘を殺す」と脅迫。

ハリーが駅に着いて公衆電話が鳴り「次は教会へ行け」→教会で電話に出ると今度は「公園へ行け」→ハリーは走って公園に行く途中でチンピラに金を出せと絡まれ殴る→

ようやく公衆電話にたどり着くが電話が鳴り、近くにいた老人が電話に出てしまう→すぐにハリーが出るも犯人から電話を切られヒヤリとするが、すぐに電話がかかってきて「次は公園の十字架の下に行け」(⑥は10分ほどのシーンですが、この間にちょこちょこハリーがヒヤリとする場面が入れられていて思わずどうなるのか?と引き込まれる)

⑦十字架の下に着いたハリー。夜の暗がりの中からサソリが出てくる。

ハリーの後ろから「動くな、銃を捨てろ」と命令しハリーは銃を捨てる。覆面をつけたサソリが出てきてハリーを殴り、撃ち殺そうとする→そこへ尾行していたチコが駆けつけ銃撃戦に。チコが撃たれ負傷し、ハリーは隠し持っていたナイフでサソリの足を刺す→サソリは足を引きずりながらも逃げる。

⓼サソリは自ら救急病院に行く→病院から警察に怪しい男が診察に来たと連絡が入る。

⑨ハリーは病院に行き医師に話を聞く。医師からスタジアムでプログラムを売っていた男で多分スタジアムに住んでいたはずと聞いてハリーはスタジアムへ向かう。

(ここが映画開始60分くらいのところ)

⑩真夜中、ハリーは令状なしに強引にスタジアムに入り、サソリを探す→サソリがその様子を見て逃げる→ハリーは住居の扉を蹴破り中に入るが誰もいない→物音がしてサソリが逃げる→ハリーが追いかける→サソリはスタジアムの客席に逃げる→ハリーが追いかける→サソリがスタジアムの芝まで逃げる→ハリーが追いつき「止まれ!」そしてサソリの足を撃つ

⑪サソリは捕まり、少女の遺体が発見される→ハリーは検察から「令状なしの違法捜査だから犯人は釈放される」と言われる。

⑫釈放されたサソリは次の標的を物色している。それを非番のハリーが尾行して監視している。

⑬ハリーの尾行に気づいたサソリは、黒人にお金を払ってわざと自分を殴らせケガをし、病院に入院しテレビでハリーに暴行されたと訴える。

⑭テレビを見ていた署長から、ハリーはサソリの監視を禁じられる

⑮監視がなくなったサソリは酒屋に入り、店主が防犯のために持っていた拳銃を奪い逃走→スクールバスをバスジャックする

⑯ハリーが市長室に呼ばれ、市長が部下に電話している場面に出くわす。「今朝八時にこの手紙がきた。20万ドルをジェット機に積んで待て。志願者を募れ」その時サソリから電話が入る。

⑰サソリがバスから降りて公衆電話から市長に電話をする。

「子供7人と空港に向かう。パトカーもヘリも出すな。下手に騒ぐと殺す」と脅迫。市長は絶対妨害しないことを約束して電話を切る。

⑱市長はハリーに現金引き渡し役を頼もうとするが、犯人には絶対に手を出すなと言われ、引渡役は断る。

⑲ハリーは陸橋の上でスクールバスが通るのを待つ。サソリはバスの中からハリーがいることを発見、バスが陸橋の下を通り掛かったときにバスの屋根にハリーが飛び降りたことを察知し、車内から天井に向かって発砲、さらに乱暴な運転でハリーを振り落とそうとする。

⑳サソリは採石場にバスを突っ込ませてしまい、バスを乗り捨て工場に逃げ込む。→ハリーが追う→工場内で銃撃戦になる

㉑工場を逃げ出したサソリは近くの池で釣りをしていた少年を人質に取りハリーを脅迫→ハリーは銃を捨てると見せかけて発砲。サソリは肩を撃たれて倒れる。

㉒サソリが銃を取ろうとしているところに、ハリーが銃を向け「弾が残っているかどうか分からないがよく考えろ」と諭すがサソリは銃を取ろうとし、ハリーは発砲。サソリは撃たれて池に落ちて死ぬ。

㉓ハリーはその姿を見つめ、自分の警察バッジを取り出し池に捨て、その場をゆっくりと立ち去る。

 

というように、

ハリーがどれだけダーティーなのか状況説明(魅力的人物であることをアピール)した後に、

ハリーが精神異常の犯人を追い詰める→取り逃がす

また追いつめる→捕まえるが違法捜査で釈放、

犯人がまた犯罪起こす→勝手に尾行する

犯人がハリーの尾行をやめさせるためにわざと黒人に自分を殴らせ入院、ハリーに殴られたと嘘をつく→ハリーは犯人の監視を禁じられる

犯人がバスジャックを起こし再び現金要求→危険なのでハリーに現金受渡役を頼むが犯人に手を出さないことが条件のため拒否

ハリーが独自に犯人のバスを追い犯人を追い詰める→人質を取られるがハリーは犯人を撃ち殺す

という流れで、犯人が第2(黒人少年殺害)、第3(少女誘拐)、第4(バスジャック)の犯罪を犯し、それに付随して次から次へとハリーの危機・解決・危機・解決が繰り返され飽きずに見れました。

「公衆電話で振り回す」とか「検察から違法捜査で咎められ犯人は釈放」とか「わざと殴らせて入院しハリーのせいにする」とか「相棒が教師になるため警官を辞める」など、刑事ドラマにありがちではない危機設定と犯人の異常な嫌な奴ぶりが面白かったんだと思います。(それプラス、クリントイーストウッドのスターにしかないカッコよさ)

かなりシナリオの構成を考えてエピソードを入れている印象で、さながらマーラー交響曲のスコアのようでした。

ハリウッドの売れる脚本の法則を体現している作品だと思います。